麻酔科医の仕事 〜手術麻酔入門編〜

こんばんは、酔いどれ麻酔科医です。

随分ご無沙汰してしまい申し訳ありません。ちょっとバタバタしていました。

そんな中、あるTwitterの発言が予想外に反響が大きくなってしまい、僕自身かなり驚いていると共に、前回の記事でも述べましたが、思ったより皆さんの多くがしっかりとリテラシー力を持っていらっしゃることに安心しました。

さて。今日は麻酔科の仕事についてお話したいと思っています。もしかしたら皆さんまだまだコロナの話が気になるかもしれません。それはまた明日からお話させて頂きます。

手術室の中って、最近はドラマなどで大分明らかにされて来ていますが、何となくblack boxの中にある様な気がしませんか?

勿論、麻酔科学という大きな括りの中には、手術麻酔だけでなくペインクリニック緩和ケアなどの分野も入ります。集中治療も大抵の大学では麻酔科が担っていたりします。僕も大学に在籍していた際は先輩に厳しくも優しく扱かれて、厳しい状態の患者さんをどう助けるかということについて学びました。

という訳で多岐にわたる麻酔科ですが、今日は僕が主に働いている手術室の中、つまり手術麻酔に関してお話しようと思います。

まず、手術をする際にどんな麻酔が必要でしょうか。大きく分けると全身麻酔、そして局所麻酔の2つに分けられます。
そして全身麻酔を更に分けると、気道確保が必要な全身麻酔と鎮静の2つに分けられ、一方で局所麻酔は本当に局所の麻酔と、そして区域麻酔に分けられます。

あまり聞いたことのない言葉が出てきたと思います。それについて少し掻い摘んで話します。

よく、僕ら麻酔科医は手術前に患者さんと会った際に、「全身麻酔のご経験はありますか?」と聞きます。すると、患者さんの中には、「胃カメラの時に全身麻酔をかけてもらったなぁ」と仰る方がいます。これの99%はいわゆる全身麻酔でも気道確保を必要としない、鎮静です。

また、例えば歯医者さんで治療を受ける際の痛み止めの注射、あれは局所麻酔です。或いは転んで頭をぶつけて血が出てしまい、それを救急外来でその場で傷を縫合する必要があった際にうつ痛み止めの注射、あれも局所麻酔です。

一方で、皆さんの中に妊娠されて無痛分娩を経験された方がいらっしゃったとしたら、その無痛分娩に使う硬膜外麻酔は区域麻酔です。後は手術を受ける際に下半身麻酔を受けたという方がいらっしゃったら、それも区域麻酔の一つです。

要は注射した場所だけの鎮痛を図るものを局所麻酔と言い、広い範囲で鎮痛を得るものを区域麻酔と言います。

勿論どちらか片方しか行わないということではなく、全身麻酔と局所麻酔を同時に行う場合もあります。ただし僕ら麻酔科医が関わる手術では多くの場合、全身麻酔は少なくとも施行することが多いです。理由としては・・・皆さん、手術中、嫌な音が聞こえたり身体を触られている感じがするのは嫌じゃないですか?
歯医者さんで、キーンと言う音が聞こえると、しっかり局所麻酔が効いているにも関わらず何となく痛い気がしたりしませんか?あれと同じです。
ですから手術中嫌な音や声などが聞こえたり、嫌な感覚を取るために全身麻酔をかけることが多いのです。

こういうと麻酔科医は患者さんを眠らせるだけが仕事?と思われるかもしれません。でも、名誉にかけて(笑)そんなことはない、と言わせてください。

そもそも皆さんが何かに困って医師の元に行かれる際、大抵の場合その医師から「今日はどうされました?」とか「何で困っていらっしゃいますか?」と聞かれて、困っていることについて話されますよね。

まず、その「困っている何か」、これを主訴と言います。そして、その主訴を聞いた医師はまた聞きます。「それについてもう少し詳しく教えてください」。そうすると皆さんは「いつから、どんな時に、どんな感じで・・・」といった話をされるでしょう。

これを現病歴と言います。
基本的に、医師は必ず患者さんの主訴と現病歴を聞きます。勿論その他にも色々聞き(これを問診と言います)、身体診察を行い、そして必要に応じて検査を行い、診断を下します。

ところが・・・僕ら麻酔科医の場合、全身麻酔のかかった患者さんは当然寝ていますから、一切の問診が出来ないのです。

ではどうするか。

これは、ある日の麻酔のモニターです(すみません、反射の写り込みが酷い・・・)

こちらは人工呼吸器のモニターです。

ここにたくさんの数字や波形が並んでいると思いますが、これらはいわゆる患者さんの「バイタルサイン」と言います。今日はこの数字それぞれの詳細についてはお話しませんが、血圧や心拍数、或いは脳波などのすべてが「患者さんのこの時点での状態」を表しています。

つまり、ここに問診に変わるすべてが詰まっています。

どういうこと?と言われるかもしれません。

例えば心拍数が高くて血圧も高かったら、手術の進行状況や術野を見て痛がっているのかな?と考えたり、逆に血圧が低くて術野で出血がかさんでいたら、患者さんの血が足りていないのかな?と考えたりする訳です。患者さんの主訴はバイタルサインの変化、と言っても良いでしょう。

僕が勝手に思っていることですが、麻酔科医は手術室内での内科医だと思っています。
そしてこれはよく言われる話でもありますが、手術をオーケストラに例えると麻酔科医は指揮者、そして外科医はソリストということになります。

つまり、麻酔科医はいかにソリスト(外科医)に気持ちよく演奏(手術)してもらうことでその曲(手術)全体を素晴らしいものにするかということが大切になります。勿論、外科医だけでなく手術室内の他の仲間たち(看護師や技師たち)にも気持ちよく演奏してもらう必要があります。

どうでしょうか。結構大変そうじゃないですか?

一昔前は、麻酔科医は偏屈で人と話すのがあまり得意でない、だから患者さんと出来るだけ関わらなくて良い(主治医にならないので)麻酔科医になった、なんて言われたこともあった様ですが、今はむしろコミュニケーション能力が非常に大切な職となっています。

今日はものすごく大雑把ですが、手術麻酔について話させていただきました。DoctorXや医龍など、麻酔科医が準主役を張る医療ドラマが増えてきたお陰で何となくではありますが麻酔科医について昔よりは馴染みがあるのではないかと思います。

それでも、ドラマは脚色されていますし、やはり手術室は病院の中で機能的にも場所的にも大体真ん中にある場所ですから、なかなか普通は馴染みがないと思います。少しずつ、紹介させていただければと思います。では。

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